2017/09/10

『Open Diagram』会場写真,作品説明

写真:山田毅
テキスト:田川莉那

  













今尾拓真《work with #4 (元崇仁小学校)》2016
本館3階の教室各所の空調に付け加えられた塩化ビニールのパイプ先のハーモニカから音が鳴り、教室の蛍光灯が明滅しているのが、今尾の《work with #4 (元崇仁小学校)》です。以前は小学校の教室として使用されていた部屋は現在、様々な団体の倉庫として利用されています。諸団体の備品の合間を縫うように今尾は空調や電気系統といったインフラストラクチャーに干渉し、建物の空気の流れや現在の建物の在り方を顕在化させています。



熊野陽平《ダイスは何度か投げられた(廻り込める運命)》2015
立方体状の6面モニター全てでダイスが投げらている様子が収められています。流れている映像は、1画面毎にそれぞれの1から6までの出目の映像がループされ、常に一定の賽の目を示し続けています。





熊野陽平《A hole in the world》2015 大量の窪み加工が施された三角形の板が階段状に設置され、その三角板の連なる最短には1つだけ穴が開けられています。本作は、その1つだけの孔に向かって、周囲に散乱しているパチンコ玉を入れるという参加型の作品です。その穴は小さく、窪み加工にも多様な指向性が付与されています。パチンコ玉を穴に入れるには様々な知略が必要となるでしょう。傍らには地図が模様化された紙が机の上に設置され、地図の形が1つくり抜かれて、三角板の形を由来を彷彿とさせます。



熊野陽平《ナゲットゲーム》2015
ファーストフード店などのチキンナゲットは成型肉であるため、その形は数種類に分類できます。その同じ形のナゲットをルールに則り5つ揃えれば上がりという複数人参加型のゲームです。ナゲットの写真がプリントされたカードでのゲームと、実際のナゲットでのプレイ映像が展示されています。





《人工的な輪郭線(境界を反転させる)》2016
6つの水槽には崇仁小学校で使用されていた板書用のコンパスや椅子が浮遊しています。浮力に合わせて水面から出ている部分へ、緑のラッカースプレーで塗装されており、水面という境界が可視化されています。6つのうち半分の水槽では、塗装した時と反転させて再び水に浮かべています。重心の関係でもとの境界線とは違う場所に境界線ができます。



熊野陽平《交通事故占い》2016
崇仁地域やその周辺をイメージした地形の中を進むボードゲームです。設定された目的地へ到達することで、ゲームクリアとなります。その目的地に向かうには、必ず通らなくてはならない場所や必要な手はずが存在し、ある程度の最適解や制約が浮かび上がります。ゲームボードとプレイ映像が展示されています。



熊野陽平《忌憚のない会話(於Open Diagram)》2015,2016(プレイドキュメント映像)
複数人参加型のカードゲームが展示されています。ゲームで配られるカードにはYESかNOで答えられる食にまつわる問いが書かれています。参加者はその問い順々に選んでいき、YESとNOの数が付された天秤のバランスをとり続けることができたらクリアです。同じく展示されているプレイ映像では、参加者は自身や他の参加者の嗜好を盤外や盤内で読み取りながら、ゲームをクリアに導こうとしています。



熊野陽平《人工的な輪郭線(地上にも水平をつくる)》2016
《人工的な輪郭線(境界を反転させる)》と同じように、水に浮かべられ、水面から出た部分がラッカースプレーで塗装された木片が展示されています。この木片は水揚げされ、窓越しに見える新幹線と同期する砂山に配されており、レーザー水平器は水面に対する木片の浮き方を示唆します。





寺嶋剣吾《無題》2016
旧放送室の二重にはめ込まれた外窓のうち、室内側の窓が外され、傍らに立てかけられています。窓全体が写り込むようにビデオカメラが設置され、窓の詳細をうかがい知るにも、その空間に干渉するにも、ビデオカメラの前に立つ必要があります。窓が外された様子や、その後の様子など、撮影された映像は南校舎3階へ向かう階段の途中のテレビで見ることができます。





南條沙歩《夢日記》2013-
南條はtwitter上で「夢日記」をつけています。南條の「夢日記」とは、南條自身が見た夢を1枚の絵に落とし込んだものです。南條は夢日記をつけることで、アニメーション作品に対する夢の影響を排そうとしてきましたが、今回は作品として今までtwitterに投稿したすべての夢日記を白い板にすべて貼り付けています。白い板には余白があり、会期中に夢日記が加筆されうることを示唆しています。



南條沙歩《ニニ-nini-》2014、《微熱》2015、《犬の庭》2016
アニメーション作品《ニニ-nini-》、《微熱》、新作の《犬の庭》をソファーに座って観賞することができます。極私的か普遍的かと区別をつけることが欄外に棚上げされるほど、微細な描写が人物から葉の一枚に至るまで行われています。いずれの作品も通常は映画館などで上映されることが多い映像作品です。しかし、今回は半ばインスタレーションとして会場に立ち現れています。







山田毅《ぬりかべ》2016
南校舎3階のある教室の出入り口にコンクリートで出来た壁が起立しています。会場マップによると、作品の展示スペースはこの教室全体を示していますが、ぬりかべのように侵入者を防ぐコンクリートの壁によって、教室に入ることはできません。ですが、足元にある小さな窓から教室の中を垣間見ることができます。教室の中には、教室にあるような机と椅子が一組だけ据えられているのが見えます。廊下には山田が小学5年生の時分に書いたとおぼしき作文が貼られ、作者としての現在の山田の姿が脳裏をかすめます。







黒木結《平らなさんぽ》2016
教室に入ると、白いテープで控えめに地図が描かれています。その地図に引かれたピンクの水糸は、黒木が歩いた沓掛から崇仁への道のりです。この際、黒木は目に留まる光景を写真に収めています。また、黒木が友人とともに崇仁地域を散歩した際にも写真を撮影しています。壁に掲示されている絵は、これらの写真をもとに黒木が描き起こしたものです。作品が展示された教室の窓は少しだけ開けられ、その窓辺には地図と京都市立芸術大学の方位を示す磁石が設置されています。黒板に書かれた言葉は、崇仁小学校の卒業式に際して書かれたものです。




寺嶋剣吾《無題》2016
常日頃、南校舎1階には諸団体の備品が置かれています。その一番奥で投影された映像が本作です。京都市立芸術大学の最寄駅である桂方面で撮影されたクレーンの上下運動の映像が流れており、クレーンとその荷に対してズームインとズームアウトを繰り返し続けます。映像の解像度は高いとは言いがたく、画が対象へ寄っても引いても、何がクレーンで運ばれているのか判然としません。







今尾拓真《before works》2015-2016
今尾の作品の多くは展覧会会場に即したインスタレーションであるため、展覧会の終了後に作品は解体され、形は残りません。そのインスタレーションにおける解体・制作途中の様子がコマ撮りによって映像化されています。今回発表された新作《work with #4 (元崇仁小学校)》もこの中にいずれ収められることでしょう。